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福岡地方裁判所小倉支部 昭和24年(ヨ)63号 決定

門司市

申請人

日本セメント労働組合門司支部

右代表者

支部長

東京都

被申請人

日本セメント株式会社

主文

本件仮処分命令申請は之を却下する。

理由

本件申請の趣旨は申請人が被申請人に対して提起する就業規則有効確認並履行請求事件の判決確定迄被申請人が申請人組合員に対して、昭和二十二年五月一日実施した就業規則は仮に有効に存続することを定むる。被申請人は申請人と協議することなくしては申請人組合員を解雇することは出来ない旨の仮処分命令を求むると云うのである。

先ず管轄について按ずるに、本案は就業規則の有効確認及就業規則の履行を求むると云うのであり、就業規則が事業場毎に定めらるべきものであることはその沿革や労働基準法第九十条の規定から見て疑を容れないところであるから、就業規則に関することは門司市に在る被申請人の事業場の業務に関するものと云うことが出来、従つて右の訴は民事訴訟法第九条に依り、事業場所在地を管轄する当裁判所に提起することが出来るものと解される。又就業規則が履行さるべき地は矢張り事業所所在の門司市であるから、その履行を求むる訴も亦民事訴訟法第五条に依り、当裁判所に提起することが出来るものと解され、旁本件は当裁判所の管轄に属するものと云い得るであろう。

次に当事者の関与に係る労働協約の終了期が昭和二十四年五月三十一日であつたことは、当事者間に争のないところである。然るに申請人は協約終了期の二週間前に失効の意思表示がないから、協約の条項に依つて、更新されたと主張するけれども、昭和二十四年五月十五日に右の意思表示のあつたことは曩に当事者間の別事件で明かにされたことであるから右労働協約は前示有効期間の満了に因り効力を失つたものと解しなければならぬ。既に労働協約が無くなつた以上被申請人は法令殊に労働基準法等の定むるところに反しない限り、就業規則を変更することが出来る訳であり、只変更するについては申請人の意見を徴しなければならない丈である。

本件では、被申請人が別紙記載の改正案を昭和二十四年六月十五日申請人に送り、意見を求めたけれども、申請人から検討の必要があるとの理由で数日間の猶予を求めた丈で具体的な意見がなかつたので、同月十八日申請人の意見を記載した書面の添付に代え右の事情を具して所轄労働基準監督署に就業規則改正の届出を為し、之を以て兎も角も被申請人の専権に属する就業規則の作成は、完了したのである被申請人の斯様な措置は聊さか性急であつて遺感の点なしとしないけれども、去りとてそれ丈のことで此の改正を無効であるとは云い得ないし、届出の際組合の意見を記載した書面を添付すると云うことも絶対的な必要条件ではない。又改正部分が法令に反すると云うことも認められないから、結局右の改正は有効であると云わなければならない。然るに申請人は右改正前の就業規則がその儘有効であること、即ち右の改正が無効であることを前提として此の仮処分を求むるのであるから、之を採容することは出来ない。又前示労働協約には、一定の場合を除いて解雇する場合は、組合と協議する趣旨の条項があるけれども、その協議すると云うことは所謂直律性を持つ労働条件の協約条項とは解されないから、仮りに所謂労働協約の事後効力又は余後効力を認むる見解を採るにしても、労働協約が終了失効した今日に於ては、之を楯にして被申請人に協議を強いる訳には行かない。結局解雇の場合には組合と協議すべきであると云うことを前提とする仮処分の申請も亦理由なしとしなければならない。

以上の理由で本件仮処分命令の申請は之を却下すべきものである。仍て主文の通り決定する。

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